古民家の長押に打たれた釘隠しのデザイン … ヘリテージ・WanderVogel2014/12/16

古民家の釘隠し
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現代の住宅では和室そのものが造られなくなったこともあって、「釘隠し」といってもなかなかピンとこない人もいるかもしれない。

釘隠しとは、簡単に言うと 和室に付けられた長押(なげし)に打った釘の頭を隠す装飾金物のことをいいます。
釘隠しは書院造りの武家屋敷だけでなく、本陣・脇本陣や神社仏閣、城郭建築といった巨大建築物でも用いられた装飾です。

長押は、引き違いの襖などの上枠(鴨居)の上に通す横材を指すのですが、鴨居を補強するような役目をしています。
鴨居・長押が真ん中付近で重みで垂れてこないように、釣り束と呼ばれる縦材で上から釣られているのですが、この釣り束と長押の交差する箇所に打たれた釘を隠すのにこの釘隠しが使われていると言うわけです。

長押(なげし)はもともとは構造材の役目をしていましたが、だんだん装飾的な使われ方をするようになってきて、それに伴ってこの釘隠しも装飾金物化していき、さまざまなデザイン、素材で造られるようになってきました。

写真は江戸時代末に建てられた民家風住居で、武家階級ではないのですがそれなりに高い家柄の民家の長押に打たれていた「釘隠し」です。
その民家には持ち主の家族が暮らす日常の空間の他に、正式な武家玄関(式台)を備えた三間続きの和室があって、身分ある武家を迎えられるように床の間・違い棚、付け書院を備えた書院造りの空間が併設されています。
その書院造りの和室の長押に付けられていた釘隠しです。


最初に説明を受けたときは、この釘隠しはトチ(栃・橡)の実をデザインして作られたもの、と聞きました。
確かにこの民家の建てられた山間部では橡・栃の木は(栃餅など)良く利用されてきた木ですから、デザインモチーフとしてはあり得る話しかなと思いましたし、真ん丸の実の形も何となく栃の実を連想させます。

トチノキは、かつては耕地に恵まれない山村では、アワやヒエ、ドングリなどと共に主食として大切に育てられていました。
積雪量が多く標高が高くて一年を通して気温の上がらない中部地方の(白川郷のような)山岳地帯の村々では、川の水が冷たすぎて稲作をすることが難しく、盛んにトチの実の採取、保存が行われていたといいます。

当然、トチノキ・栃の実を大切なものの代名詞のように扱った地域(藩)もあっただろうと思います。 ですから、そういうバックボーンがあれば、装飾金物に栃の実を積極的にデザインすることも十分に考えられます。


でもちょっと待ってください? このデザインを見る限り、これはやはりトチノキではないでしょう。だいいち葉っぱの形が違い過ぎます。
トチノキの葉は巨大な手のひらのような掌状複葉ですので、葉っぱの形状・デザインが全然違います。
1枚の小葉だけをデザイン化したと考えても、葉柄まで描かれているのですからまあそれも無いでしょうね。いくら工芸としてデザイン処理しているとは言え、ここまで違うのではトチノキだというのはかなり無理があり過ぎです。


次に言われたのは、ツバキの実ではないか、という話しでしたが、ツバキの実という説も、丸い実の下に彫金されているガクのような文様が何だか違うように思いますし、葉っぱの縁(鋸歯)のデザインも何だか妙な感じがします。

何よりも、ツバキの花はサザンカと違い、花がまるで首が落ちるようにそのままのかたちでポロッと落ちるので、斬首を連想させるということで武家階級では忌み嫌われ、あまり使われないデザインモチーフとも聞きましたので、武家にとっては何だか縁起が悪いですよね。

(丸い実の形状から「ウメ」とも一瞬考えたが、やはりガクや葉の印象が明らかに違います。ウメはバラ科なので、葉っぱをこんな感じは表現しないだろうなぁ。)


僕が考えるに、これは「茶の実」ではないか、と想像しました。椿よりも葉っぱの形状や実のガクの線刻部分の表現がチャノキに近いように見えます。

チャノキ(茶の木)も椿と同様にツバキ科ですが、細部が微妙に違っています。
葉柄の太さと葉の主脈が太く表現されている点からもツバキ科の特徴を捉えているように見えます。ただ、1点疑問が残るのが、葉の縁の鋸歯の描き方です。

茶の実は、もともと中国から高貴な薬として伝来し、長寿の効用があると珍重されたといいますし、茶の湯をたしなむ武家階級のデザインモチーフとして使われても違和感はまったく無いでしょう。

こうやってあれこれと想像するのも楽しいのですが、、、さて、本当のところはどうなんでしょうか?

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