山の自然素材を使って作るアート(スギ) … Nature Art・Workshop2021/09/06

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:スギの球果と食痕
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

スギ(杉、Cryptomeria japonica):ヒノキ科スギ亜科スギ属、日本原産の常緑針葉樹。スギ属 (Cryptomeria 属) は本種のみ。
以前はスギ科 Taxodiaceae に分類されていた。
漢字の「杉」は、日本ではスギのことを指すが、中国ではコウヨウザン(広葉杉:中国南部原産のヒノキ科コウヨウザン属の常緑針葉樹)のことを指す。

杉は古くは神聖な建築物の柱材、壁材などに使われてきた。時代が下がると町家などでも使用されるようになったが、一般的な民家では広葉樹材が使用されることが多かった。杉は割裂性がよく、裂いて材(角材や屋根葺き板材など)を作ることが出来たため、古くはその方法で加工されてきた。
また、杉の樹皮もとても有用な建材で、外壁材や屋根材(杉皮葺)として古くから利用されてきた。葉は乾燥して線香に用いられた。

ニホンリスの食痕:スギの球果を齧った痕(上の4個の球果)。球果の中に入っている小さな種子を食べる。
ニホンリス(ネズミ目リス科)はけっこう雑食で大食漢、アカマツの松ぼっくりやスギ、ヒノキの種子、クルミやドングリ、果実の他に、キノコや昆虫、小鳥の卵なども採食する。
植林地やアカマツの生えている真下の地面をよーく観察すると、ニホンリスやムササビ、モモンガ、ネズミなど野生小動物の食痕をたくさん見つけることが出来る。

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山の自然素材を使って作るアート(ウツギ) … Nature Art・Workshop2021/08/27

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:ウツギ
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

ウツギ(空木)学名:Deutzia crenata:アジサイ科(旧ユキノシタ科/エングラー体系)ウツギ属の落葉低木。雌雄同株。葉は対生。
ウノハナという別名を持ち、丹沢の沢沿いや林道沿いの林縁部で、6月ころにいっせいに白い花を咲かせる。
この時期、ウツギだけでなく、ヒメウツギ(アジサイ科)やガクウツギ(アジサイ科)、マルバウツギ(アジサイ科)、コゴメウツギ(バラ科)、ツクバネウツギ(スイカズラ科)などが順に咲き始める。

ウツギは花期を終えるとすぐに結実させる。直径5~6mmの果実はお椀状というか壷状の朔果で、果実の中心からは花柱(雌しべの芯)がピョコンと飛び出している。花柱は熟すと枯れて3~4裂する。
果実は熟すと基部が裂けてそこから小さな種子がこぼれ出てくる。
種子は小さく肉眼では粉のように見えるがルーペで良く観察してみると、長さ1.5~2mmの種子の片方に翼があるのが解る。風に乗って運ばれる風散布形式の種子なのだ。

結実後はこのままの姿を保ち、翌年の夏くらいまで残っているのでサンプル採取は容易だ。

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山の自然素材を使って作るアート(センペルセコイア) … Nature Art・Workshop2021/08/25

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:センペルセコイア
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

センペルセコイア:ヒノキ科(スギ科)セコイア属の常緑樹
もちろん日本には自生していないが、大きな都市公園や庭園などに植えられることがある。
近似種のメタセコイアは20世紀半ばに中国西南部で見つかりその後アメリカで育苗された苗木が輸入され、日本全国に広がりあちこちで見かけられる様になっているが、センペルセコイアの方はまだそれほど見る機会は少ないと思う。葉の形状など良く似ているが、センペルセコイアは冬季でも葉が落ちない常緑樹で、メタセコイアの方は黄葉後にすべて落葉してしまうので、見分けられる。

葉の付いた小枝ごと下に落とすので、時期になると写真のような姿のものをたくさん採取出来る。
枯れて、中の種子を落とし終わったものが多く、種子サンプルを見つけるのには少し苦労する。
作品化しても、葉がポロポロと落ちていくので、現状の姿を維持させるには瞬間接着剤で留めるなりの工夫は必要。
枯れた果実の形状にもいろいろ個性があり、レイアウト次第では楽しめる。
バックには少し柄のあるネパール和紙(ロクタペーパー)を使っている。


センペルセコイア:Sequoia sempervirens、セコイア・センパーヴィレンツ、別名:セコイアメスギ・アカスギ
世界の絶滅危惧植物 絶滅危惧Ⅱ類(VU)、北アメリカ太平洋側沿岸部、標高700-1000mの海岸に近い山地に自生する。
寿命がとても長く、樹齢800年から2000年のものがあるといわれている。また、世界でもっとも樹高の高い木のひとつといわれ、高いものでは100mを超えるという。
雌雄同株異花で、葉の先端に雌花が付く。雄花は葉腋から出て、葉の内側に付く。
樹皮や材の中心部が赤いことからコースト レッドウッドとも呼ばれる。

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山の自然素材を使って作るアート(ヤマノイモ) … Nature Art・Workshop2021/08/20

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:ヤマノイモ
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

ヤマノイモ属のつる性植物は丹沢ではヤマノイモのほか、オニドコロ、ニガカシュウ、カエデドコロなどいくつか混生して見ることが出来るが、みな良く似た形状をしているので見分けるには少しコツが必要だ。

ヤマノイモ(山の芋)Dioscorea japonica:ヤマノイモ科ヤマノイモ属のつる性多年草。雌雄異株。
日本原産で、粘性が非常に高い。ジネンジョウ(自然生)、ジネンジョ(自然薯)、ヤマイモ(山芋)とも呼ばれる。
雄花は直立し白い花を咲かせ、雌花は下に垂下がって咲く。
葉はヤマノイモ属の中で唯一対生なので、見分けは付き易い。また、葉腋にムカゴ(零余子)が付くのも特徴のひとつだ。

果実は蒴果(さくか)で大きな3つの陵があり、下向きにつく。
それぞれの陵の中に2つの種子が入っている。果実が熟すと針金状の留め金がはじけて裂開し種子が放出される。種子の周りに出来た薄くて大きな膜を使って風に乗り遠くに飛ばされる。ただし、ムカゴによる繁殖のケースの方が多いのだともいわれている。


オニドコロ(鬼野老)Dioscorea tokoro:ヤマノイモ科ヤマノイモ属のつる性多年草。雌雄異株。
雄花は直立し淡黄緑色を咲かせ、雌花は下に垂下がって咲く。ムカゴは付かない。
オニドコロは葉はヤマノイモに比べ丸く、葉が互生で付くので見分けられる。オニドコロのイモには有毒成分があって食べられない。ヤマノイモと間違えて食べて苦しむ人もいるが、アク抜きをすれば食用出来るともいわれている。オニドコロの毒の成分はサポニンの一種とシュウ酸カルシウムで多くは水溶性。シュウ酸カルシウムは加熱処理である程度無効化することができる。とは言え、一種の救荒植物的な扱いでの話であろう。

果実は蒴果でヤマノイモとは逆に上向きに出来る。
種子の周りにはヤマノイモ同様に薄い翼があるが、ヤマノイモと比べずいぶんと小振りだ。なので、飛翔能力も高くはない。上向きの付く果実はヤマノイモと違って稜/殻は全開せず、先端から3分の1だけ開く。殻から吹き飛ばされるほどの強風が吹くときだけ種子は散布される仕組みなのだ。理にかなった実に良く出来た種子散布システムだ。


ニガカシュウ(苦何首烏)Dioscorea bulbifera:ヤマノイモ科ヤマノイモ属のつる性多年草。雌雄異株。
雄花(紫色)雌花はともに下に垂下がって咲く。
葉の形は普通のハート型で互生して付く。オニドコロの葉と似ているが、大きさはヤマノイモ科では一番大きく、15cm位もあるのも見かける。
葉脈に規則正しく横に走る側脈があるのもニガカシュウの特徴。ニガカシュウの葉柄の基部と上端には独特の縮れた襞(ひだ、ひれ)がある。
葉腋にムカゴ(零余子)が付くが、ヤマノイモのムカゴに比べるとゴツゴツした突起があってイビツな形をしている。
根もムカゴも苦みが強くて食用には向かないかな。


ヤマノイモの作品制作にあたっては、枯れた果実のサンプル採取は非常に容易でいくらでも手に入る素材のひとつだ。
蔓と枯れた果実のバランスを見ながらレイアウトし、薄い翼の付いた種子をアレンジすると作品は出来上がる。フォルム自体がキレイで面白い形をしているので、そこを活かして楽しみながら作ると良い。
上記のように似たツル植物の種子散布方式の違いを頭の隅に思い浮かべながら作っていくとより理解が深まるだろう。

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山の自然素材を使って作るアート(イケマ) … Nature Art・Workshop2021/08/16

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:イケマ・生馬・牛皮消
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

イケマ:学名:Cynanchum caudatum 、キョウチクトウ科ガガイモ属のツル性多年草。
山の林縁部や、日当たりのよい斜面などで普通に見られる。

キョウチクトウ科ガガイモ属の特性で、全草毒草である。特に、植物を傷つけたときに出る白い汁(乳液)に毒性を持つ。
また、その太く長い地下茎にはアルカロイド系の毒性があり、昔から生薬としても用いられてきた。漢方名で「午皮消根」といい、効能は利尿、強壮、強心薬、食中毒の解毒や腹痛、歯痛、風邪薬、回虫の駆除などに使われていた。

またイケマは、アサギマダラ(蝶)の食草としても知られている。同じキョウチクトウ科ガガイモ属のキジョラン(鬼女蘭)もアサギマダラの食草。
アサギマダラはイケマやキジョラン、ガガイモなどの葉の裏側に産卵し、その幼虫はその葉を食べて育つ。アサギマダラは、鳥などの外敵から身を守るため、幼虫のうちにガガイモ属の持つ毒素を体内に取り込み「蓄積」しているという。この天敵からの防御システムもアサギマダラのDNAに組み込まれたプログラムなのだと考えると自然の不思議さには感嘆させられるばかりだ。

花期は7月から8月で、小さな花が多数集まって花序全体が球のように丸くなって咲く。花が終わると、ガガイモ属特有のオクラのような紡錘形の袋果(果実)を2つずつつける。袋果の中には白く長い種髪(毛束)をつけた長さ8mmほどの種子が入っている。袋果が割れると毛束の付いた種子が飛び出し風に乗り飛散する。


イケマは「生き馬」を意味し、ウマの便秘を治す薬に使われたとか、「カムイ(神)の足」というアイヌ語が由来で名付けられたとかイケマと言う名の由来には諸説あるようだ。(アイヌ語名も日本語名も「イケマ」というそうだ)
アイヌ民族にとってもイケマは古くから重要な植物で呪術用、薬用、食用とされていたようで、伝染病などから身を守るお守り代わりに乾燥したイケマを身に付けていたともいう。


アサギマダラ(タテハチョウ科):日本全土から朝鮮半島、中国、台湾、ヒマラヤ山脈まで広く分布し、その目立つ色彩の翅は一目でそれと分かる。アサギマダラの成虫は、秋に日本本土から南西諸島・台湾などへと渡り、初夏から夏にその逆のコースで北上するとされ、「旅する蝶」として知られている。
上にも書いたように、アサギマダラはガガイモ属植物の持つアルカロイド系毒素を体内に取りこみ貯えることで身体を毒化し、敵から身を守っている。アサギマダラは幼虫・蛹・成虫とどれも鮮やかな体色をしているが、これは毒を持っていることを敵に知らせる警戒色と考えられている。(Wikipedia抜粋)

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山の自然素材を使って作るアート(イワタバコ) … Nature Art・Workshop2021/08/12

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:イワタバコ・岩煙草
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

イワタバコ:岩煙草、Conandron ramondioides Siebold et Zucc.、イワタバコ科イワタバコ属
別名:イワジシャ(岩千舎、岩萵苣)、イワナ(岩菜)、ヤマジシャ(山萵苣)とも呼ばれる。(ジシャ、チシャとはレタスのこと)
和名の由来は、岩場に生え、葉がタバコの葉に似ているので名付けられた。若葉は食用とされる。
日本の本州、四国、九州、沖縄および、台湾などの山地に一般に分布し、日当たりの悪い湿った岩や崖に生える多年草。いつも水がにじみ出ているような日陰の岩壁に群生しているのが見られる。
細長い朔果は長さ約1cmの広披針形で2つに割れる。(ほとんど粉のような)紡錘形の種子が多数入っている。

神奈川県内では鎌倉長谷寺や東慶寺、円覚寺などのイワタバコ(ケイワタバコ)の群生がよく知られているが、神武寺はじめとした三浦丘陵一帯と丹沢および箱根などに広く分布している。ざっくり言うと鎌倉や三浦丘陵一帯にはケイワタバコが多く見られ、丹沢の沢沿いなどではイワタバコが見られる。
ただ、丹沢や箱根でもイワタバコとケイワタバコの両方が自生していて、場所によって棲み分けされていると言われている。山地の沢だけでなく、秦野市菩提のわさび園の沢や石垣などでも普通に見かけられる、丹沢では割りとポピュラーな花というイメージだ。
丹沢は基本的に丹沢層群の地層を構成する凝灰岩(緑色凝灰岩)が多く、岩質が水分を含みやすいこともあってイワタバコの生息にはもってこいの環境なのだろう。

採取にあたっては、自然保護を最重点に考え、種子が放出された後の枯れたものを個体を痛めず慎重に採取するか、個人のわさび棚などに生えているものを一声掛けて採らせてもらう。写真のイワタバコの枯れた朔果のサンプルは「ケ」の付かない「イワタバコ」。
2つに割れた朔果はそれ単体で見てもけっこう芸術的なフォルムをしていて、なかなかに「萌える」ものである。
ただ、そうそうたくさんのサンプルを採取することが出来ないのが難点だ。


イワタバコとケイワタバコの区別について:同定は結構やっかいだが、このへんを詳しく解説している他人のブログ記事を参考にすると、「ケイワタバコの葉は主脈が葉身(ようしん)の中央を通らず片側に寄っており、左右対称でないことが大きな特徴。主脈は曲線を描く。(毛がどうこうは一切無視して)この点をもってケイワタバコであろうと当たりを付けると良い。葉の表面は強めに縮緬(ちりめん)状になる。」とあった。

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山の自然素材を使って作るアート(ベニシダ/紅羊歯) … Nature Art・Workshop2021/08/11

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「シダ/羊歯」に注目して作った標本風のサンプル作品:ベニシダ(押し葉)
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

ベニシダ:
シダの押し葉の標本でよく見かけるのは、成長した2回羽状複葉の葉の姿が多いように思うのだが、ここでは地上に出たての若芽を作品づくりの題材としてみた。
紅色を帯びた若芽はモサモサの毛で覆われ、成長した姿とはまた変わった様相を見せていて面白い。個体によって明るい紅色から濃い茶色までカラーバリエーションがあり楽しめる。
春先、若芽がまだ十分に伸びきらないうちに採取するのがポイント。押し葉にする際にも作品の出来上がりを想像しながら、産毛を痛めない様に時間をかけながらていねいに押し葉作業すると良い。

作品づくりでは、ハガキ大の画面にどのようにレイアウトしていくかがデザインのポイントだろう。
上記作品はガラス板にサンドイッチして作成しているが、その方法だと2~3年は全く変化無くこの状態を維持させることが出来る。
ガラス板で挟まないやり方だと劣化(あるいは虫害)で1年も持たずにポロポロと崩れていってしまうので注意が必要だ。

シダは花を咲かせない植物なのだが、なぜか花言葉があるそうで、「魅惑」や「誠実」「愛らしさ」という花言葉があるという。
ヨーロッパ(どこの国だか知らんが)に伝わる「シダは夏至の夜にひっそりと花を咲かせる」という魅惑的な言い伝えが由来らしい。

ベニシダ(紅羊歯、Dryopteris erythrosora)オシダ科 オシダ属
日本(本州以南)を含む東アジア南部、南はフィリピンまで自生し、草原や明るい林内などによく見られる。
欧米では、Japanese shield fern、Japanese wood fern、autumn fern、copper shield fern などの名前で呼ばれる。
常緑性で、茎は長さ50cm前後、幅20cm前後の2回羽状複葉。
若芽は紅色をしているためにこの名があり、また若いソーラス(胞子嚢)も赤く色付く。

シダ関係の過去のブログ:https://hd2s-ngo.asablo.jp/blog/2017/06/04/8585421

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山の自然素材を使って作るアート(アオギリ) … Nature Art・Workshop2021/08/09

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:アオギリ・青桐
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

アオギリ:学名:Firmiana simplex、雌雄同株で、雄花が先行して開花し花粉を飛ばす。
アオイ科(APG III分類、従来の分類ではアオギリ科)アオギリ属の落葉高木。中国南部・東南アジア原産で、本土には自生していない。

山野で見かけることはあまり無く、人為的に植えられた公園樹、街路樹として都市部などでよく見かけられる。
名の由来は、葉っぱがキリ(桐)の葉に似ていて、幹の色が緑(アオ)に見えるため「アオギリ」と名付けられたが、キリ(キリ科 Paulowniaceaeキリ属)の仲間ではない。花も果実もキリとは全く違う形状をしている。

6月から7月に黄白色5弁の小花(花弁ではなくガク片)を群生させ、果実は10月ころに熟すが、舟形をした心皮は5片に割れ、その心皮の縁辺に1~5個の小球状の種子を付けるのが特徴。かなり高い位置に花を咲かせるので、条件が良くないと果実の採取には苦労する。気が付くと強風で四散してしまったり、管理業者に剪定されいつのまにかサッパリと整理されてしまったりするので、きれいなものを手に入れるのもタイミングと条件次第だ。

種子は結構しっかりと心皮の縁に張り付いているので簡単には剥がれ落ちないが、作品化するにあたって心配であれば瞬間接着剤で留めておいた方が良い。
形自体が変わっていて作品化しやすそうだが、個体によって大きさがまちまちなのでレイアウトに工夫がいる。
写真のものは額自体大き目のものを使用し、額自体も白く塗装し台紙も白色のものを使用、心皮にも一部に彩色を施している。

種子の風散布の仕組みは良く出来ていて、強い風に乗ってボート状の心皮の縁に種子を乗せたまま枝から吹き飛ばされ、ヘリコプターの羽のようにくるくる回転しながら落下していく。
小さな丸い種子は古くは食用にされ、太平洋戦争中にはコーヒー豆の代用として使われたとも書かれているが、どうなんだろう。まぁ、昔の人は大概のものを口にしてきた経緯があるので、「昔は食用にされた」と言っても話半分で聞いていた方が良い気もする。

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山の自然素材を使って作るアート(タマアジサイ) … Nature Art・Workshop2021/08/07

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:タマアジサイ・玉紫陽花
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

タマアジサイ:アジサイ科アジサイ属の落葉低木
平地で咲く様々な種類のアジサイの花期が終わった後の7月から9月過ぎにかけて花を咲かせる。淡紫色の小さな両性花の集まりの周りに、4枚の花弁(正確には花弁ではなく萼片)の白色の装飾花が縁どり、丹沢の沢沿いの林道などではけっこう目立つ存在だ。

両性花は、秋に実が熟す。果実は朔果(さく果)で、熟すると花柱の根元が裂開し下部が裂けて、種子がこぼれ落ちるという散布方式(風散布)をとっている。
種子散布が終わり、全体が枯れた後も萼と花柱、ドライフラワー化した周りの装飾花(4枚の萼片)がいつまでも残るので、翌年の開花時期を過ぎても昨年の花が枯れた姿で残っているのをよく見かける。

種子は1mm以下とかなり小さく、楕円形で両側に翼状の薄い膜を持ち、まるで、セロファンに包まれたキャンディーのような形状をしている。

作品づくりに関して、採取時期は自然にドライフラワー化する冬以降が良いだろう。年を越しても問題なくきれいなものを採取することが出来る。
すでに中央の両性花も周囲の装飾花(萼片)も枯れた色をしてしまっているので、そこはフォルムとレイアウトの工夫で面白い作品に仕上げていこう。
種子もユニークな形状をしているのだが、なにせサイズが小さ過ぎて、組み入れるのには一工夫が必要だ。
サンプル作品では額もベースも同系色としているが、地味過ぎてパッとしなかった。バックに関しては、白色に近い色の方が花自体のシルエットを強調出来て良いと思う。


タマアジサイ(玉紫陽花、Hydrangea involucrata)
蕾が球形なのでこの名がある。丹沢一帯から箱根にかけて多く自生しているポピュラーな樹木。
中央に両性花を配し、周囲にいくつかの装飾花を持つタマアジサイだが、装飾花の雄しべと雌しべは退化してしまっているので結実することはない。
装飾花の役目は目立たない両性花に代わって虫たちを呼ぶ寄せる働きをしている。そしてうまく受粉が成功すると、装飾花はその役目を終え、頭を垂れうつむき、虫たちに受粉完了のサインを送ることになる。
誰が考えたのか、まったく良く出来たシステムだと感心させられる。自然の作り出す「しくみ」のなんて神秘的なこと。

同じようなシステムを持つものに、ヤマアジサイやガクアジサイ、ノリウツギなどがある。みな同じアジサイ科アジサイ属の落葉低木だ。

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山の自然素材を使って作るアート(ナガミヒナゲシ) … Nature Art・Workshop2021/08/05

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:ナガミヒナゲシ・長実雛芥子
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

ナガミヒナゲシ:ケシ科ケシ属
ヨーロッパ地中海沿岸原産のの一年草または越年生植物。春先から初夏にかけて道端などで生育し、目立つオレンジ色の花を咲かせる。
非常に強い繁殖力を持ち、他の植物の成長を妨げてしまうため、全国の多くの自治体で「注意すべき外来植物」に指定している困った植物だ。
ここで取り上げている「山で見られる植物」というわけではなく、日光が当たる場所であれば街中であれ花壇の植込みであれどこでも爆発的に繁殖しているのを見かける。

蕾みの時には深々とうなだれているが、開花する時にはまっすぐ上を向く。毛が密生する萼に包まれた蕾みは、開花するときには萼を脱ぎ捨てる。

種子散布のシステムがこれまたユニークで独特。非常に良く出来ている。
果実が熟して乾燥すると柱頭との間に8箇所程度の隙間・スリットが円周に沿って開いてくる。縦に細長い果実の内部にはフィン状の縦のガイドが設けてあって、上部のスリットから吹込んだ風をガイドに沿って下に送り、その力を利用して逆に種子を押し上げ外へと浮き上がらせ排出、散布する、というメカニズムを持っている。

合わせて、風靡(ふうび)散布あるいは風力射出散布と呼ばれるような、風の力で果実自体を激しく揺さぶることによって広範囲に種子をまき散らすという二重の仕組みを組み合わせている。そのためにその身体のサイズに似つかわしくないほどの高く長い茎を持っているのだ。


採取にあたっては少し注意が必要だ。ナガミヒナゲシの茎や葉には植物毒の「アルカロイド」が含まれているので、採取中に黄色い汁が手に付くと、皮膚の弱い人はかぶれやただれを起こす恐れがある。(鈍感な僕は平気なのだが、、)

そんなやっかいなナガミヒナゲシだが、その種子散布の巧みにスポットを当てて作品づくりをしてみるとかなり面白い。
種子散布の仕組みが解るようデザインし、レイアウトにも工夫をこらすと楽しい作品になるだろう。
果実が緑色のうちに採取して吊るしてドライフラワーを作り始めても問題はない。ドライフラワー化する過程でスリットが出来、種子散布の準備は進んでいく。ただ、問題がひとつあって、この細かい種子は出尽くすということが無く、いつまでも細かい種子が出続けることだ。


ナガミヒナゲシ(長実雛芥子、Papaver dubium)
果実(芥子坊主)は細長く、和名の長実雛芥子はここから付けられた。
株立ちして育つことも多く、大きな株では一株で100個もの実をつけるという。果実の中にはケシ粒大の種子が入っていて、一つの果実には約1,600粒もの種子が内包されているという。ということは、大きな株ではそれひとつで16万粒もの種子を周囲にバラまくという「飽和攻撃」により他の植物を駆逐していく、ということになる。ある意味、無敵な植物なのだ。外来生物恐ろしや。

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