古民家の土壁・アノニマスなデザイン … 建築の旅・WanderVogel2013/05/18

民家の土壁
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日本古来からの民家には、今で言う建築家やデザイナーなどはいっさい介在しませんし、そもそも家を建てるのに詳しい設計図面やデザイン図などといったものは存在しません。
しかし、今それらを見るとき、時々その独創的なデザインセンスに驚かされます。

数寄屋造り、茶室といったものや町家建築を建てる際にはもちろん平面図(大概は板に描かれる板絵図と呼ばれるもの)は描かれますが、農村部の民家ではそういった絵図を描くこともあまり無かったのではないかと思います。
家の大きさと柱の位置だけを決めて、あとは材料と相談しながらその地域の伝統的なやり方と経験で組み上げていくことになります。

専門的な「大工」という職能が地方で確立していたわけではありませんから、農業の傍らで大工仕事の上手い人などが中心になって家の骨組みだけを組立てて、あとの仕事(壁の竹小舞の下地組みや土壁塗り、屋根の骨組み作りと茅葺きなど)は村の人たちが総出で作り上げていくことになります。

この古民家の妻壁(小屋組み)を見ると構造的には「オダチ組」の造りを見せていますが、曲がった柱やレベルの異なる梁/桁を自由に(?)組みながら大らかに作っているところなどが何とも魅力的です。

窓は下地の竹小舞をそのまま塗り残しているだけのザックリとした仕上げになっていて、そこで暮らすにはかなりの覚悟がいるのでは、と想像に難しくないほど開けっ広げな仕上げになっていますが、その思いっきりの良さが美しい!

とはいえ、こういった昔の民家では隙間風が吹き抜けるというよりは、まったく外と同じ環境で暮らすということですので、なかなかに努力が必要ということになりますね。

僕は大好きですけど。

古民家の檜皮壁・ヴァナキュラーなデザイン … 建築の旅・WanderVogel2013/05/19

檜皮張りの壁
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昔の民家の外壁仕上げは、仕上げ材料によって多少種類がありますが、基本的には雨風を防ぐことが最大の役目となります。

今の住宅のように見栄えやデザインで外壁の仕上げ材を自由に選択することはありません。
民家の外壁の工法や材料の選択については、周りの自然環境・気候風土であったり、その村の伝統であったり、手に入りやすい材料であったりと「必然」からくるものです。

昨日のBlogに載せた土壁も民家の外壁としてはポピュラーな仕上げで、日本人には馴染み深い素材ですが、土壁というのはどんなに丁寧に塗り重ねたとしても雨水が掛かれば溶け出してしまい、長い年月の間には風化し崩れてしまいます。
ですので、軒の出を深くして雨が掛からないようにした軒下の上部や室内などでない限りは、相応の工夫をしておかなければなりません。

土壁で雨が掛かりそうな箇所には、写真のように土壁の外側にひわだ(スギやヒノキの樹皮)や板(ヒノキやヒバ、サワラといった油分のある木の板あるいは竹を細く裂いて板状にしたもの)などを張ったり、(雨に強い)漆喰を塗ったりして土壁を雨から守ってやらねばなりません。

外壁仕上げには地方色が如実にあらわれます。
土壁も情緒がありますが、こういった檜皮葺き(張り?)の壁もまた良いものです。

茶室の数寄デザイン・金毛窟 … 建築の旅・WanderVogel2013/05/21

茶室/金毛窟
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家康再興の伏見城の遺構であると言われている(黄檗の三室戸寺金蔵院から移設された)月華殿から見た大正七年(1918年)に建てられた茶室「金毛窟」
(建物には写真左手で水屋を介してつながり、正客用のにじり口は写真左手にある。)

一畳台目(だいめ)に床の間が付属するだけの 小さな小さな茶室ですが、15帖と12帖の部屋を持つ月華殿から見たときのスケール感とその佇まいが良い。
バランスよく開けられた、大きさも高さも違ういくつかの窓の配置や壁面の仕上げの妙がセンスの良さを見せつけています。
この辺の設計思想は、前のblogにある「民家」とは対極にあるものといえるでしょう。

丸い礎石の上に直接土台を載せる土台建ての上に通気のための配置された竹の縦格子、その上の杉皮張りの腰壁と土壁、障子窓に施されたお茶室らしいしつらえの竹の桟と蔀戸、屋根は檜皮葺きで軽快に葺かれ全体的に雑味も無く、とても上品に仕上がっています。

高台に移築され見晴しの良い開放的な月華殿から、一畳台目という究極とも言える狭さの茶室に入ると、そのギャップの大きさに瞑想空間のような趣きを感じてしまいます。

床柱に大徳寺山門(金毛閣)の高欄の柱を持ってきて使っているという、数寄者ならではの創意にも感心させられます。

塩水橋から天王寺尾根・丹沢山へ … WanderVogel2013/05/26

丹沢山ツクバネウツギ
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東丹沢の自然観察を目的に、宮ヶ瀬湖にそそぐ支流「塩水川」沿いの林道を歩き、堂平を経由して天王寺尾根に突き上げ、尾根伝いに丹沢山の山頂まで登ってきました。

丹沢山の東側は「御林(おんばやし)」と呼ばれる幕府が所有する山林だったということもあって、「自然の森」の姿が残っているエリアです。
「御林」では、ツガ、ケヤキ、モミ、スギ、カヤ、クリの6種類の木は伐採が禁じられていたそうです。

広葉樹林の山道を歩いていると、ちょうどシオヤシオ(ゴヨウツツジ)やトウゴクミツバツツジが開花を迎え、フジや様々なウツギ類も花開いて、頭上に花が舞っているようです。
標高600mから1000m近くのブナやイヌシデ、クマシデ、カエデ類の新緑は今が一番みずみずしく、降り注ぐ木漏れ日が林全体を柔らかく包み込んで、まさしく自然の生命力に満ち溢れている感じでした。

写真はツクバネウツギの花です。
花の根元に見える5枚の萼片が、羽根つきの羽根に見えることからその名が付けられたそうです。
その他にマルバウツギ、ガクウツギ、コゴメウツギ、ノリウツギなどのたくさんのウツギ類が可愛らしい花を付けていて、目を楽しませてくれます。

1000mから上の稜線上には大きなブナ林を見ることが出来ます。
また、元々の植生であるツガやウラジロモミも場所によって見ることが出来ますが、根元近くには樹皮を鹿に食べられないように保護アミがかけられています。

鹿の被害は丹沢全エリアに広がっていて、林床の低木類/草木類だけでなく、鹿のエサとなるツガやモミの樹皮も大きな被害にあっています。

今現在、被害に遭わずに林床に残っている低木類といえば、毒のある木(アセビ)や草(バイケイソウ/テンニンソウ)など鹿の嫌いな特定の樹種だけになってしまっています。

コースタイム:
(登り3.5時間、下り3.5時間程度のゆっくりしたペースでの山行)
塩水橋ゲート(8:30)~堂平(10:30)~天王寺尾根合流(11:10)〜丹沢山山頂(12:10)~昼食(12:40)下山開始~天王寺尾根分岐(13:20)〜天王寺峠分岐(14:50)~本谷川林道(15:10)~塩水橋ゲート(16:10)

地図=1/25,000:大山

くれ板葺き屋根の民家 … 建築の旅・WanderVogel2013/05/27

くれ板葺き屋根
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40〜50年前くらいまでは田舎の民家で見ることが出来た「くれ板葺き」の屋根も、今では博物館でないとなかなか目にすることは出来ません。

飛騨や信州、新潟などの雪深い地でも古い民家/農家/町屋では写真のような、「榑(クレ)」と呼ばれる板を葺き、石を置いた切妻造りの建物がほとんどを占めていました。

現代のような製材工具がない時代には、丸太を割り、木の目にそって同じ厚みと長さに一枚一枚裂いて作られていました。
これは、「クレヘギ」(くれ剥ぎがなまったもの?)と呼ばれる手法で、木の特質を利用して上手に木を裂きながらクレ材を作り出すという熟練の技術です。

榑(くれ)材の寿命はおおむね5〜6年と言われていて、茅葺きと比べてもかなり寿命の短いものです。
くれ材にはクリ、カラマツ、ナラ、ネズ、サクラなどを用いますが、中でもクリ材は水に強く腐りにくく耐久性があり、屋根を葺くのに一番適していると言います。

茶室や数寄屋造りなどの武家の住宅などでは檜皮葺きや杮葺きといったヒノキやサワラ、スギ、ヒバなどの高級材が使われましたが、農家や普通の民家ではそう簡単に使うことは出来なかったのでしょう。
もちろん瓦葺き屋根などは、江戸のような建物が密集した都市部では防火/類焼防止の観点からいくらか規制もゆるかったのでしょうが、その他の地方では厳格な身分制度の中でおとがめを受けることになりますので使用出来ません。

葺き替えには榑板をいったん全部屋根から取り外し、腐りがない使えるものは屋根に残して、腐りがひどくもろい材は取り外して屋根裏を掃除し、下から新しい榑(くれ)を葺いていく「クレガエシ(板がえし)」という作業を行います。

破棄された古いくれ板は焚き物として重宝され、無駄なく使われたようです。

ヤブツバキ・タイワンリスによる食害 … WanderVogel2013/05/29

ヤブツバキとタイワンリス
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神奈川県南部の三浦半島や鎌倉周辺には野生化したタイワンリスがたくさん繁殖していて、あちこちで悪さをしていて問題になっています。

写真は江ノ島の森に植えられているヤブツバキですが、幹がことごとくタイワンリスにかじられてしまって、こんな無惨な姿になってしまっています。

これはタイワンリスがツバキの樹皮が好きで食べているわけではなくて、木をかじることで出てくる虫を食べていると言われています。

人の手が入る前にもともと関東南部一帯の森に生えていた在来樹種(常緑広葉樹)であるスダジイ、タブノキ、シャリンバイ、トベラ、モチノキやヤブツバキなどを植林し直し整備してきた「江の島龍野ヶ岡自然の森」ですが、それまであったクロマツはマツクイムシ(マツノザイセンチュウ)によって全滅し、ヤブツバキやその他の木もタイワンリスによる樹皮の食害で衰弱してしまったり枯れてしまったりしています。

植えられている樹種はどれも塩害や台風並みに吹付ける強い塩風に強いものばかりですが、ある程度しっかりと人の手を入れて管理して保護してあげないと「自然の森」を維持することは難しいようです。

丹沢地域の広範囲な自然もこのようにエリアの限定された自然も、「自然の状態」のまま環境を維持していくことは最低限の人の手助けが必要ということなのでしょう。

丹沢山山頂東側のブナ林と鹿柵 … WanderVogel2013/05/30

丹沢山のブナ林と林床
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丹沢山山頂東側の天王寺尾根の最上部に広がるブナ林には、林床保護のための木道と鹿除けネットに囲まれた保護エリアが整備されています。

林の高木層にはブナ/イヌブナに混じって、ハウチワカエデと低木のトウゴクミツバツツジの姿が確認出来ます。
尾根上にあれだけ多かったアセビ(馬酔木)の姿はまったく見られなくなりました。

丹沢山山頂から塔ノ岳方面への稜線上のブナ林は立ち枯れが目立ち、稜線全体の荒廃がかなり進んだ状況になっていますが、丹沢山東側のこのあたりはまだ美しいブナの大木の姿を見ることが出来ます。

ただし林床を見てみると、草本類は毒のあるバイケイソウや鹿の嫌いなテンニンソウ、オオバダケブキ、マツカゼソウだけが目立ちます。

低木から草本類には片寄った植生が目立っていて、写真で見ても健全な森林の姿には見えませんね。

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