山の自然素材を使って作るアート(ベニシダ/紅羊歯) … Nature Art・Workshop2021/08/11

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「シダ/羊歯」に注目して作った標本風のサンプル作品:ベニシダ(押し葉)
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

ベニシダ:
シダの押し葉の標本でよく見かけるのは、成長した2回羽状複葉の葉の姿が多いように思うのだが、ここでは地上に出たての若芽を作品づくりの題材としてみた。
紅色を帯びた若芽はモサモサの毛で覆われ、成長した姿とはまた変わった様相を見せていて面白い。個体によって明るい紅色から濃い茶色までカラーバリエーションがあり楽しめる。
春先、若芽がまだ十分に伸びきらないうちに採取するのがポイント。押し葉にする際にも作品の出来上がりを想像しながら、産毛を痛めない様に時間をかけながらていねいに押し葉作業すると良い。

作品づくりでは、ハガキ大の画面にどのようにレイアウトしていくかがデザインのポイントだろう。
上記作品はガラス板にサンドイッチして作成しているが、その方法だと2~3年は全く変化無くこの状態を維持させることが出来る。
ガラス板で挟まないやり方だと劣化(あるいは虫害)で1年も持たずにポロポロと崩れていってしまうので注意が必要だ。

シダは花を咲かせない植物なのだが、なぜか花言葉があるそうで、「魅惑」や「誠実」「愛らしさ」という花言葉があるという。
ヨーロッパ(どこの国だか知らんが)に伝わる「シダは夏至の夜にひっそりと花を咲かせる」という魅惑的な言い伝えが由来らしい。

ベニシダ(紅羊歯、Dryopteris erythrosora)オシダ科 オシダ属
日本(本州以南)を含む東アジア南部、南はフィリピンまで自生し、草原や明るい林内などによく見られる。
欧米では、Japanese shield fern、Japanese wood fern、autumn fern、copper shield fern などの名前で呼ばれる。
常緑性で、茎は長さ50cm前後、幅20cm前後の2回羽状複葉。
若芽は紅色をしているためにこの名があり、また若いソーラス(胞子嚢)も赤く色付く。

シダ関係の過去のブログ:https://hd2s-ngo.asablo.jp/blog/2017/06/04/8585421

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山の自然素材を使って作るアート(アオギリ) … Nature Art・Workshop2021/08/09

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:アオギリ・青桐
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

アオギリ:学名:Firmiana simplex、雌雄同株で、雄花が先行して開花し花粉を飛ばす。
アオイ科(APG III分類、従来の分類ではアオギリ科)アオギリ属の落葉高木。中国南部・東南アジア原産で、本土には自生していない。

山野で見かけることはあまり無く、人為的に植えられた公園樹、街路樹として都市部などでよく見かけられる。
名の由来は、葉っぱがキリ(桐)の葉に似ていて、幹の色が緑(アオ)に見えるため「アオギリ」と名付けられたが、キリ(キリ科 Paulowniaceaeキリ属)の仲間ではない。花も果実もキリとは全く違う形状をしている。

6月から7月に黄白色5弁の小花(花弁ではなくガク片)を群生させ、果実は10月ころに熟すが、舟形をした心皮は5片に割れ、その心皮の縁辺に1~5個の小球状の種子を付けるのが特徴。かなり高い位置に花を咲かせるので、条件が良くないと果実の採取には苦労する。気が付くと強風で四散してしまったり、管理業者に剪定されいつのまにかサッパリと整理されてしまったりするので、きれいなものを手に入れるのもタイミングと条件次第だ。

種子は結構しっかりと心皮の縁に張り付いているので簡単には剥がれ落ちないが、作品化するにあたって心配であれば瞬間接着剤で留めておいた方が良い。
形自体が変わっていて作品化しやすそうだが、個体によって大きさがまちまちなのでレイアウトに工夫がいる。
写真のものは額自体大き目のものを使用し、額自体も白く塗装し台紙も白色のものを使用、心皮にも一部に彩色を施している。

種子の風散布の仕組みは良く出来ていて、強い風に乗ってボート状の心皮の縁に種子を乗せたまま枝から吹き飛ばされ、ヘリコプターの羽のようにくるくる回転しながら落下していく。
小さな丸い種子は古くは食用にされ、太平洋戦争中にはコーヒー豆の代用として使われたとも書かれているが、どうなんだろう。まぁ、昔の人は大概のものを口にしてきた経緯があるので、「昔は食用にされた」と言っても話半分で聞いていた方が良い気もする。

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黄色いツルウメモドキの果実 … 自然観察・WanderVogel2021/08/08

黄色いツルウメモドキの果実
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普通、ツルウメモドキの実というと黄色い果皮と橙赤色の仮種皮というのがよく見かける姿なのだが、一昨日見かけたものは緑色の果皮と黄色い仮種皮というシックな組み合わせのものだった。猛暑のこの時期にすでに果実化しているのもかなり気が早い。

葉や若芽の形がウメ(梅)に似ていて蔓性であることから、ツルウメモドキという名が付いたが、実感としては名前ほどにはウメには似てない気がする、、
モチノキ科モチノキ属の「ウメモドキ(梅擬)」は、葉の形や寝癖の様にあちこちにぴょんぴょん枝を出す枝振りがウメに似ていると言えなくもないが、紅い小さな実を密集してつける果実はウメには全く似ていない。
また、クロウメモドキ科クロウメモドキ属の「クロウメモドキ(黒梅擬)」も果実は全くウメではない。
面白い呼び名だが「海クロウメモドキ」という植物もいる。ヒマラヤ山中でも見かけられるが、地中海沿岸から中央アジア、中国にかけて自生しているグミの仲間で、英語圏では、サジー(saji)、シーバックソーン(Sea buckthorn)、シーベリー(Sea berry)などと呼ばれている。グミ科ヒッポファエ属(Hippophae)の落葉低木で、昔から栄養価の高い果物として親しまれている。海クロウメモドキに至っては、ウメにもクロウメモドキにも似ていない。

というように、なぜか「~ ウメモドキ」と名の付いた樹木は意外に多いのだが、どれもウメには似ていない気がするのに何故その名が付いた?、と少し疑問に思う。

目立つ色の仮種皮に包まれた種子は小鳥に食べられ遠くまで運ばれる。広範囲に子孫を散布してもらうのが目的だ。
硬い仮種皮は小鳥がついばみやすくする為にだろうか、果実が熟すと3つに割れて反っくり返る。艶やかな仮種皮はいかにも美味しそうだ。

ニシキギ科ツルウメモドキ属(蔓梅擬、学名:Celastrus orbiculatus)の落葉つる性木本
雌雄異株で、葉腋に短い集散花序を出す。果実はさく果。
花期は5~6月頃で、通常10~12月になって黄色く熟し、果皮が3つに割れ、橙赤色の仮種皮があらわれる。
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山の自然素材を使って作るアート(タマアジサイ) … Nature Art・Workshop2021/08/07

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:タマアジサイ・玉紫陽花
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

タマアジサイ:アジサイ科アジサイ属の落葉低木
平地で咲く様々な種類のアジサイの花期が終わった後の7月から9月過ぎにかけて花を咲かせる。淡紫色の小さな両性花の集まりの周りに、4枚の花弁(正確には花弁ではなく萼片)の白色の装飾花が縁どり、丹沢の沢沿いの林道などではけっこう目立つ存在だ。

両性花は、秋に実が熟す。果実は朔果(さく果)で、熟すると花柱の根元が裂開し下部が裂けて、種子がこぼれ落ちるという散布方式(風散布)をとっている。
種子散布が終わり、全体が枯れた後も萼と花柱、ドライフラワー化した周りの装飾花(4枚の萼片)がいつまでも残るので、翌年の開花時期を過ぎても昨年の花が枯れた姿で残っているのをよく見かける。

種子は1mm以下とかなり小さく、楕円形で両側に翼状の薄い膜を持ち、まるで、セロファンに包まれたキャンディーのような形状をしている。

作品づくりに関して、採取時期は自然にドライフラワー化する冬以降が良いだろう。年を越しても問題なくきれいなものを採取することが出来る。
すでに中央の両性花も周囲の装飾花(萼片)も枯れた色をしてしまっているので、そこはフォルムとレイアウトの工夫で面白い作品に仕上げていこう。
種子もユニークな形状をしているのだが、なにせサイズが小さ過ぎて、組み入れるのには一工夫が必要だ。
サンプル作品では額もベースも同系色としているが、地味過ぎてパッとしなかった。バックに関しては、白色に近い色の方が花自体のシルエットを強調出来て良いと思う。


タマアジサイ(玉紫陽花、Hydrangea involucrata)
蕾が球形なのでこの名がある。丹沢一帯から箱根にかけて多く自生しているポピュラーな樹木。
中央に両性花を配し、周囲にいくつかの装飾花を持つタマアジサイだが、装飾花の雄しべと雌しべは退化してしまっているので結実することはない。
装飾花の役目は目立たない両性花に代わって虫たちを呼ぶ寄せる働きをしている。そしてうまく受粉が成功すると、装飾花はその役目を終え、頭を垂れうつむき、虫たちに受粉完了のサインを送ることになる。
誰が考えたのか、まったく良く出来たシステムだと感心させられる。自然の作り出す「しくみ」のなんて神秘的なこと。

同じようなシステムを持つものに、ヤマアジサイやガクアジサイ、ノリウツギなどがある。みな同じアジサイ科アジサイ属の落葉低木だ。

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山の自然素材を使って作るアート(ナガミヒナゲシ) … Nature Art・Workshop2021/08/05

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:ナガミヒナゲシ・長実雛芥子
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

ナガミヒナゲシ:ケシ科ケシ属
ヨーロッパ地中海沿岸原産のの一年草または越年生植物。春先から初夏にかけて道端などで生育し、目立つオレンジ色の花を咲かせる。
非常に強い繁殖力を持ち、他の植物の成長を妨げてしまうため、全国の多くの自治体で「注意すべき外来植物」に指定している困った植物だ。
ここで取り上げている「山で見られる植物」というわけではなく、日光が当たる場所であれば街中であれ花壇の植込みであれどこでも爆発的に繁殖しているのを見かける。

蕾みの時には深々とうなだれているが、開花する時にはまっすぐ上を向く。毛が密生する萼に包まれた蕾みは、開花するときには萼を脱ぎ捨てる。

種子散布のシステムがこれまたユニークで独特。非常に良く出来ている。
果実が熟して乾燥すると柱頭との間に8箇所程度の隙間・スリットが円周に沿って開いてくる。縦に細長い果実の内部にはフィン状の縦のガイドが設けてあって、上部のスリットから吹込んだ風をガイドに沿って下に送り、その力を利用して逆に種子を押し上げ外へと浮き上がらせ排出、散布する、というメカニズムを持っている。

合わせて、風靡(ふうび)散布あるいは風力射出散布と呼ばれるような、風の力で果実自体を激しく揺さぶることによって広範囲に種子をまき散らすという二重の仕組みを組み合わせている。そのためにその身体のサイズに似つかわしくないほどの高く長い茎を持っているのだ。


採取にあたっては少し注意が必要だ。ナガミヒナゲシの茎や葉には植物毒の「アルカロイド」が含まれているので、採取中に黄色い汁が手に付くと、皮膚の弱い人はかぶれやただれを起こす恐れがある。(鈍感な僕は平気なのだが、、)

そんなやっかいなナガミヒナゲシだが、その種子散布の巧みにスポットを当てて作品づくりをしてみるとかなり面白い。
種子散布の仕組みが解るようデザインし、レイアウトにも工夫をこらすと楽しい作品になるだろう。
果実が緑色のうちに採取して吊るしてドライフラワーを作り始めても問題はない。ドライフラワー化する過程でスリットが出来、種子散布の準備は進んでいく。ただ、問題がひとつあって、この細かい種子は出尽くすということが無く、いつまでも細かい種子が出続けることだ。


ナガミヒナゲシ(長実雛芥子、Papaver dubium)
果実(芥子坊主)は細長く、和名の長実雛芥子はここから付けられた。
株立ちして育つことも多く、大きな株では一株で100個もの実をつけるという。果実の中にはケシ粒大の種子が入っていて、一つの果実には約1,600粒もの種子が内包されているという。ということは、大きな株ではそれひとつで16万粒もの種子を周囲にバラまくという「飽和攻撃」により他の植物を駆逐していく、ということになる。ある意味、無敵な植物なのだ。外来生物恐ろしや。

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山の自然素材を使って作るアート(ブナ) … Nature Art・Workshop2021/08/02

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:ブナ・山毛欅・椈
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

ブナ:ブナ科ブナ属の落葉広葉樹
新葉は銀色に輝く細かな柔らかい毛で覆われ、春の芽吹きはなんとも可憐で美しい。新葉の展開と同時に開花する。
秋には綺麗に「黄葉」「紅葉」するので、その姿も見どころ。殻斗の中には2個の堅果が入っていて、種子散布方式は殼斗ごと地面に落とし野生動物に食べられるとともに一部を運んでもらう方式だ。冬芽にも特徴があって、細長いきれいなライフル弾型(披針形/ひしんけい)をしている。
良く似たイヌブナはブナよりも低い標高で見られるが、殼斗も小さく果実も小振りだ。

ブナの実はソバの実に似るため「そば栗」とも呼ばれる。
毎年、大量の実を落とすブナだが、地面に落ちたブナの実は山に棲む野生動物(ツキノワグマ、ネズミ、リス、ムササビなど)の貴重な食料になり、その場であらかた食べられてしまう。
そこで、ブナは数年に一度、大豊作の年を作るようにDNAにプログラムされているのだ。そして野生動物の食べる量を大幅に上回る数の果実を作り地面に落とす。そのようにしてブナは子孫を残すチャンスを広げているのだ。実に賢く涙ぐましい生存戦略だ。それほど気を使って種子をバラまいても自然界ではなかなか実生が育たないという厳しい現実もあり、人生同様に樹生もそうなかなかうまくは行かないということだな。

令和3年(2021年)度もブナの実が大豊作となる可能性が高いという。ブナの実が豊作となると、ブナの実を好物としているツキノワグマの栄養状態が向上し、翌春に生まれる子熊の数が増えると言われている。ブナの実付き具合は山の食料事情を大きく左右する大切な指標となっている。


作品づくりでは、フォルムのきれいな個性的なかたちの殼斗と果実(種子)を同時に採取しよう。4裂して広がった殼斗は刺状の突起が特徴でかなり変わった姿をしているが、そこがブナの果実の特徴だ。果実にははっきりとした3稜がある。
ブナの殼斗はゴツくて迫力があるので、額装するにあたってはその迫力に負けないくらいの少し粗っぽいテクスチャーを持つ台紙(ネパール和紙など)にレイアウトすると良いだろう。何ごともバランスが大切なのだ。


ブナ(山毛欅、橅、椈、Fagus crenata Blume)
日本の温帯林を代表する樹種。
中国語で「山毛欅」とは、中国ブナを指す。「橅」の漢字は近年作られた和製漢字。
雌雄同株。5月頃に葉の展開と同時に開花する。果実は総苞片に包まれて10月頃に成熟し、その殻斗が4裂して散布される。
殻斗に包まれた2個の果実(堅果)は、断面が三角の痩せた小さなドングリのようなもの。

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山の自然素材を使って作るアート(カラスノエンドウ) … Nature Art・Workshop2021/08/01

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:カラスノエンドウ(ドライフラワー)
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

カラスノエンドウ:マメ科ソラマメ属の越年草。
春先にピンクと赤の目立つ色合いのいかにもマメ科らしいフォルムの可愛らしい花を咲かせる。果実はそのままエンドウマメを小さくしたような形状をしていて、やがて黒く色付いてくる。
熟してくると外側の黒い莢が強烈によじれて、中の種をパンっと勢い良く弾き飛ばす。自力で種を遠くに飛ばすこの仕組みは感動的だ。

作品化するには、捩じれた莢と絡み付く蔓がバランス良く付いているパーツを採取すること。すでに種子が弾き飛ばされている場合は種子も別に採取しておくことで後々の作品づくりの助けになる。
雑草扱いのカラスノエンドウだが、こうしてバランス良く配置し額装してみると、種子散布の不思議とそのメカニズム・ディテールの複雑さに感心させられるものとなる。

まさしく「種子萌え」な一品だ。

ヤハズエンドウ(矢筈豌豆、Vicia sativa subsp. nigra):
カラスノエンドウ(烏野豌豆)という名が一般には定着しているが、ヤハズエンドウというのが、標準和名。
近縁の仲間には、スズメノエンドウ(Vicia hirsuta)、カスマグサ(V. tetrasperma) などがある。この3種は、いずれも路傍に生えるごく普通な雑草で、生育の季節も共通するため、往々にして混生する。

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山の自然素材を使って作るアート(キク科の冠毛種子) … Nature Art・Workshop2021/07/30

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:キク科の冠毛種子(ドライフラワー)
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

キク科の痩果と冠毛種子:キク科の花はドライフラワー化するのが難しい花だ。花の咲いている時期に摘み取りドライにしようとしても、通常の方法ではそこで成長が止まることはなく種子の状態まで(冠毛が出来る状態まで)進んでしまう。まぁ、作品づくりではそれでも良いのだが。
キク科の冠毛種子は千差万別で、それぞれ観察してみると非常に面白い。大きさも形状もディテールもそれぞれに特徴的な個性があって創作意欲が湧く素材なのだ。冠毛は花の段階ですでに出来ているのだが花びらに隠れてしまい見えにくくなっている。

作品づくりとしては、花全体としてレイアウトする方法もあるし、根気のいる細かい作業にはなるが冠毛種子単体でデザインをしてみるのも楽しい。
花によって果床から種子が分離しやすいものもあるし、割りとしっかりくっ付いているものもあるので、作品づくりにはそのへんの見極めと対策が必要になる。
作り終えた作品はその後ルーペで細かく冠毛種子のディテールを観察してみることをお勧めする。そこには新たな魅力が見えてくるはずだ。


キク科の植物全てが冠毛種子を作るというわけではないが、多くのキク科植物の種子には冠毛がある。まぁ、キク科であってもヒマワリなんかは冠毛種子にはならないのだけどね。


キク科の冠毛種子
キク科(Asteraceae)は、もっとも進化し、もっとも分化している植物とされる。
日本では約70属360種のキク科植物が知られており、地球上のほとんどの地域で生育可能といわれるほどの適応力を持っている。
頭状花序(頭花)をつくる小花には、筒状花(管状花)と舌状花の二種類がある。二種類の花を合わせ持つものもあるし、それぞれ片方だけで出来ている花もある。中心部に筒状花を持ち、頭状花序の周縁に舌状花を配するもの(リュウノウギクなど)、舌状花だけで構成されているもの(タンポポなど)、筒状花だけで構成されているもの(イソギクなど)。
「冠毛」とは萼(がく)の変形したもので、果実が熟したあと、乾燥して放射状に開き、風に乗り種子をより遠くに散布するのに役立つよう進化した。
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山の自然素材を使って作るアート(アメリカフウロ) … Nature Art・Workshop2021/07/28

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:アメリカフウロ・亜米利加風露(ドライフラワー)
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

アメリカフウロ:野山で収集せずとも、そのへんで蔓延っているのをよく見かける「雑草」あつかいされるかわいそうな植物。
仲間のゲンノショウコは薬草として利用されることもある日本原産の植物なのだが、こちらは明治以降に流入してきた帰化植物で、悪気は無いのだが一段下に見られてしまうのが悲しいところ。

アメリカフウロは種子散布の方法が非常に巧みなので、以下少し解説してみよう。感心させられること請け合いだ。
花が終わると急速に子房(黒い玉のような部分:袋状の果体で中に種子が1つ入っている)が成長し始める。やがて果実が成熟し子房全体が黒く変色してくると、がく片も鮮やかな紅色に色付いてくる。
さらに成熟し乾燥した果実は、長いヒゲのような部分(長く伸びた花床)が歪んで反っくり返ろうとする。長いヒゲは本体に残った子房の軸(雌しべの花柱)と完全にくっ付いているわけでは無く、大半は表面の細い溝の中に嵌まっているだけなので、これが外れて勢い良く反っくり返ることになる。
その結果、袋状の果体の中に入っていた種子が袋から放り出され、遠くへ飛ばされるというメカニズムなのだ。
投石器(カタパルト)のような仕組みに例えられるが、この巧みな種子散布が非常にメカニカルで、機械好きの男心をわしづかみにするのだ。

自ら種子を投げ飛ばす「自動散布」とも言えるこのような複雑な機構を手にした割りには飛ばせる距離は、まぁそこそこなのだが。

葉っぱの形状も特徴的で、葉の細かい切れ込み具合が変わっていて、葉っぱだけでも十分に鑑賞に堪えると思っている。
今後、何か作品を作ってみたい。

アメリカフウロ(亜米利加風露、Geranium carolinianum)
フウロソウ科フウロソウ属の雑草。
一年草の北アメリカ原産の帰化植物で、道端の植込みでもよく見かける。
葉は大きく3~5裂し、それぞれの裂片はさらに細かく分かれている。
花期は5~6月。花は薄い紫で小さく、茎の先端に散房状につく。果実は約2cmの角果で、5つの分果に弾ける。
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山の自然素材を使って作るアート(ウバユリ) … Nature Art・Workshop2021/07/24

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「タネ・種子」に注目して作った標本風のサンプル作品:ウバユリ・姥百合
「森林インストラクターと山を歩き、山で収集したもので作品を作ってみよう」という“森のワークショップ”の一環で作成した、WS用の個人的な「習作」

ウバユリ:青くて固い果実(朔果)が茶色く色付き、だんだんと裂け目が広がってくる姿は非常に神秘的だ。
3裂する裂け目は、隙間を櫛形の太い糸状のもので固く結ばれていて、それぞれの部屋には薄い種子がびっしりと隙間無く積み重なって入っている。

風がその隙間に吹き込むと風の力で種子が浮きあがり、薄い膜状の羽根に揚力が発生し上から順番に飛び散る仕組みになっている。
いわゆる「風散布型」と呼ばれる仕組みで種子を広範囲にまき散らす、というわけだ。
糸で綴じられた狭い隙間が、一気に種子を飛ばさない様に制御するという役目/構造を合わせ持っている。
でも実際には、少々の風では種子は飛ばされない。
相当強い風が吹き、この枯れた果実ごと勢い良く揺さぶられるほどの勢いがなければ種子は散布されない。
弱い風で飛び出てしまっては足元にしか散布されないのを嫌って、出来るだけ強い風に乗れる様にもう一工夫されているというわけだ。

ウバユリの花は茎に対し横向きに咲くのだが、受粉を終えた後、果実は身体を起こし垂直に姿勢を変え、種子散布の準備に入る。
こういった機能も、風を受けて効率良く広範囲に散布するためにウバユリが考え出し進化させてきた「生存戦略」のひとつなのだ。

花を咲かせ、結実し、種子を散布するという一連の動作の全てが、あらかじめDNAにプログラミングされていることを考えると、自然界はなんて神秘的な仕組みで出来上がっているのだろうと感嘆せざるを得ないね。

“森のワークショップ” での作品作りの要点は、こうした種子散布の仕組みを感じさせる様にプロット(ストーリー展開)していくことだ。
ハガキサイズの大きさでレイアウト出来るようなサンプル採取がキモとなる。
参加者の作品づくりに口を挟み過ぎるのは「野暮」というものだが、“森のワークショップ” ではその植物が「なぜその形態になったのか」や「なぜその性質を持つに至ったのか」というところを考えながら作っていくことも目的のひとつなので、そこは外せないところなのだ。


ウバユリ(姥百合、Cardiocrinum cordatum)
ユリ科ウバユリ属の多年草。山地の森林に多く自生する。
花期は7~8月、茎の上部に横向きに花をつけ、長さ4~5cmで楕円形の果実が実る。
扁平な種子には広い膜があり、長さ11~13mmの3角形になる。

花が満開になる頃(女盛りを迎えた後)には葉が枯れてくるので、歯(葉)のない「姥」にたとえて名づけられた。
と、僕も自然観察会などで参加者に説明をすることもあったが、実際には全てがそうでもなく、開花時期に葉っぱが残っていることも多くあって、そう言う話しをし難いこともけっこうある。それに今の時代、姥(老いた女性のことを指す)=歯の無い老婆、という意味合いで説明をすること自体、大いにはばかられるご時勢なのである。実際のところ、歳を重ねて尚お美しい方は多いのだから。
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