木材供給と森林再生・木造建築3 … 建築設計・WanderVogel2014/03/09

林洞庵
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・・つづき・・・
日本は「独自の木の文化を継承している国」というイメージがありますが、今の建築士や建築大工の実情を見るとどうも一概にそうとは言えない感じです。

実際に、木の国であるはずの日本の(建築学科卒業の)建築士は、山の木のことも森林環境のこともほとんど知らず、大概の学生はちゃんとした木造建築を学ぶこと無く卒業してきた、というなんとも奇妙な状態が長い間続いてきました。(かく言う私もその一人でしたが…)

江戸時代から明治時代に入ると、それまでの日本の伝統的な木造建築は古くさいとか時代遅れとか言われ、西洋技術至上主義が広まっていきます。木造の伝統工法や木造技術、土壁やしっくい、瓦などの日本古来の素材や技術の継承に関してもあまり重要視されなくなってきました。
そんな風潮の中、その時期に本当に多くの貴重な建築物が無造作に壊されています。

伝統的な工法や技術の継承がまったく無かったわけではありませんが、かろうじて残ったのは「社寺建築」や「茶室」など一部の古典的なジャンルに限られます。
昭和に入ってもその傾向は変わらず、特に戦後は社会的な要求もあって(燃えない)RC造や鉄骨造が主流となり、学校での講義の中心もやはりそこに絞られていました。

最近になって、国も木造建築の復興に力を入れ始め、木造住宅で地元の木材を一定量使うと補助金が出る「木材ポイント」という制度を作ったり、公共建築(学校や役所・地域集会所など)は出来るだけ木造建築としなさい、というような動きになってきています。
木造建築を増やそうという背景には、日本中の山の木が伐採期を迎え有効に木を使うシステムをつくり出さないと森林や山自体が荒れてしまう、という環境保全の問題が大きな要因になっています。他にも二酸化炭素の発生を抑制するとか、カーボンニュートラルとか、ひとつの地域だけに留まらない地球全体の温室効果ガス排出削減とか、様々な環境問題が木造建築推進の一因になっているものと思われます。

ただ、上にも書いたように「木造建築」を設計出来る人が少ない。「木造建築」を作れる大工さん、工務店・建設会社が少ない。という問題がここにきて明らかになってきました。

これからは建築学科の学生にも、伝統工法の仕組みを実際の重要文化財などを教材として教えたり、森林学や造林学、山の環境学などの単位取得を義務づけるといった教育システムの改革が必要なのかも知れません。
また、自然環境と建築設計・都市計画を統合したような分野のエキスパートをもっと育成していくことも急務になってくると思います。


また別な観点から言えば、建築業界も他の産業と同様に、需要があってこそ供給側の技術革新や継承がついてくるものです。住宅に関して言えば一般の人の意識の中に、家は買うものではなく(楽しんで)造るものだという、あたりまえの意識に立ち戻ってもらうことも大切なことでしょう。

造る側に目を向ければ、現状のような木造住宅の92%以上がプレカット(工場生産)材で、運ばれてきた材料を現場で組立てるだけというやり方に慣れてしまっているのも問題です。
一般的な需要がなくなってしまったことが原因ではありますが、手刻みで造る大工さんの仕事は全体の8%以下になってしまっています。ハウスメーカーを始め、多くの工務店が造る住宅では、室内の扉や造り付けの家具などは今では全て既製品を取付けるだけになっています。
造り手側はこういう現状を良しとせず、家を造るという専門性や技術/技量ってなんなんだろう? と、今一度「造ること」にプライドを持って正面から向き合うことが必要でしょう。

いずれにせよこういう問題は、山の木の成長と同じですぐに結果が出るものではなく、少しずつでも着実に意識をしながら進めていく(広めていく)、息の長い取り組みなんですね。

長文になってしまったが、、 ・・ここでおわり・・・

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