北鎌倉・明月荘が全焼・焼失してしまいました … 建築・文化財保全/HM2015/03/24

北鎌倉・明月荘
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昨日は朝から建築士会関係者や横浜ヘリテージマネージャー(邸園(歴史的建造物)保全活用推進員)の関係者たちから、続々とメールが飛び込んできました。
北鎌倉の明月谷戸に建つ明月荘が22日の午前3時ころに出火し、主屋と隣接するお茶室の全てを焼失してしまったというなんとも衝撃的な知らせでした。

昨日は朝のうちにデスクワークをして、その後山上の畑に出ていましたので朝のニュースを見る時間が無くて、明月荘全焼の知らせを仲間内のメールではじめて知ったというわけです。
夕方戻ってきて、ニュースやネットなどで詳しく確認してみて、何となく全体像が解ってきました。

この「明月荘」を会場にして、内田 祥哉(よしちか)先生を迎えての講演会が催されたので、私も昨年11月に訪れたばかりでした。
写真はその講演会の時の参加者同士が明月荘の庭でくつろぐ様子を写したものですが、焼けてしまった今では、この姿を再び見る機会は永遠に失われてしまったことになります。
(この写真の右手側にお茶室が建てられているのですが、火はそちらへも延焼し、施設のすべてが焼け落ちたそうです。)


出火の原因は解っていませんが、午前3時に出火したこと、直前に警報装置が作動していることなどを考えると放火の可能性が大きいでしょう。
実際に、神奈川県(全国でもそうでしょうが)の木造文化財の放火による焼失はけっこうな棟数にのぼります。
有名なところでは、藤沢市に建っていた昭和初期の洋館「旧モーガン邸」、戸塚区に建っていた「旧住友家俣野別邸」、つい最近では、私の住んでいる金沢八景近くの富岡というところに建っていた「旧川合玉堂別邸」が一昨年の暮れにやはり放火により全焼・焼失しています。

同じいたずらでも破壊や落書きでしたら(これも許されることではありませんが…)修復も効きますが、焼失してしまったものは絶対に二度と元には戻りません。

火災というのは、木造建築の最大の弱点であり、究極の破壊方法だと言えるでしょう。
家屋だけでなく付随する調度品から備品まで、全てが一瞬で灰になってしまうのです。
その意味からも、「放火」という行為は木造の文化財破壊の中でももっとも許されざる破壊行為と言えるのです。

ですから重要文化財級の木造建築を維持管理・利活用している方々は特に「火」には神経を使っています。いざという時が来ないよう日頃からいろいろ注意を払い、方策をとっているわけです。

また、明月荘の保存管理については、神奈川県(都市整備課)と一緒になって専門的な補修/利活用を手助けしている「神奈川まちづかい塾」のメンバーらが中心となり、さまざま修復プログラムを模索していました。
やっと昨年、修復作業に向けたプログラムを作った矢先の出来事だったので、メンバーの落胆ぶりは想像以上だと思います。
怒りを感じるというよりは、みんな何とも言いようのない失望感と脱力感に包まれていることと思います。
重要な文化財の焼失という言いようのない無念さに加えて、それを保存修復し利活用を推進してきた方々の焦燥感を思うと何とも言いようもありません。


保存・修復・利活用と一口に言っても、県の修復/維持管理の予算組みの中ではとてもやりきれるものではなく、森林ボランティアなどと同様に市井の人たちの協力や努力、知恵に期待するところが大きいのが実情です。

「神奈川まちづかい塾」をはじめ、様々な団体の方々が以前から建物の清掃や広大な庭や山林の整備を行なってきました。そして、木造建築文化財の専門的なことがらだけでなく、昔の鎌倉谷戸の生活・文化などについての情報発信にも尽力してきました。

今年は年初からこの神奈川まちづかい塾主催による、修復ボランティアを広く募集して、この建物のことを周知させることも含めた「修復ワークショップ」を始めたばかりでした。

とりあえず傷みの目立つ明月荘玄関周りを修復しようと、今年の1月・2月で一部土壁や基礎の解体と新たな軸組補修を行なっていました。
そしてこの4月から5月にかけては、土壁の下地組み(竹小舞)ワークショップと土塗り(荒塗り)ワークショップが始まる予定で、ワークショップのボランティア募集もすでにかけていました。

でも、22日の早朝でそれらのこと全てが水泡に帰してしまいました。
現段階では放火によるものとの結論が出たわけではありませんが、いずれにせよ、まったくもって残念・無念でなりません。

明月荘・木造建築/和小屋の知恵:http://hd2s-ngo.asablo.jp/blog/2014/11/08/
横浜山手の洋風住宅の修復見学会:http://hd2s-ngo.asablo.jp/blog/2014/03/29/

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